内容的にはというか設定的にだいぶ無理があるんですがまぁ私なので仕方ないのです。
あと二人のファンの人には怒られそうな感じですけどもメインは百合ですホントです
一応区切りいいとこまで書いたと思います。
あらすじ的な何か
舞台は近代ヨーロッパ風のどこかの世界。
資産家令嬢イオリ・オーフォードは政略的結婚によりある富豪青年の元に嫁ぐ。
夫は仕事で頻繁に家を空け、イオリは退屈な日々を過ごしていた。
◆
「退屈だわ」
イオリはため息をついて、一言そう呟いた。
この家に来てからというもの、何もかもが退屈だった。
夫は今日も朝早く出て行き、いつ帰宅するかは分からない。
見慣れない風景、口に合わない食事、召使いは皆無口で話し相手はおらず、娯楽が何一つない。
訪ねてくる人物はすべて夫の仕事関係であり、この土地に知り合いは誰一人としていなかった。
「当たり散らす相手でもいればもっと楽なのに」
窓際まで歩いていき外を見ると、曇天の空はこの上なく灰色で、ただぼーっと見つめるには
あまりにも表情がなさ過ぎた。
嫁いで来る時は、確かに不安でいっぱいだった。
唐突に決まった結婚に心を乱されない人間がいるだろうか。
どんな人が夫になるのだろう。年齢も容姿も分からない。もしかすると冷徹な人物かもしれない。
あれこれと想像してみたが、結局は従うしかないのだった。
だが実際に会ってみると、予想していたほど悪い人間では無かった。
むしろ、優しく気遣ってくれる良き伴侶であった。
問題はたった一つだけ、家に殆ど居ないということであった。
思い返してみると、イオリの父も頻繁に外国を飛び回って家を空けていたし、
それ程納得がいかないことではなかった。
違うのは、実家での裕福な暮らしが孤独を紛らわせていたということだった。
ここには何もない。
外の景色を眺めることに飽きたイオリは、ベッドに腰掛け、横になり、やがて眠りについた。
「奥様、旦那様がお呼びでございます」
年老いた侍女の声で目が覚めた。どれくらい寝ていたのかは分からないが、外はほんのり暗くなっていた。
「今行くわ…」
眠たい目を擦り、鏡の前に座って乱れた髪を直した。
侍女について応接間に降りてゆくと、夫と見知らぬ女性が居た。
「起こしてしまってすまないね、イオリ。実は君に紹介したい人がいるんだ」
「こちらの方?」
「初めまして。丘向こうに住んでいるアズサ・トリスと申します」
女性は名乗った後に微笑んで軽く頷いた。
「どういうことなの?」
「実は、君が毎日退屈していると聞いて、何だか申し訳なくなってね。
そこで、僕の代わりに君の話し相手になって欲しいと彼女に頼んだんだ。
アズサ、最初に謝っておくよ。彼女の夫は僕の古い友人だったんだが、一昨年病で亡くなってしまって、
今は彼女もずっと一人なんだ。どうだい?イオリも彼女の話し相手になってくれないかな」
「いきなり帰ってきて…話し相手になれですって…!!」
「無理にとは言わないよ。君が嫌なら今まで通りなだけさ」
「そうですね、私も唐突にこんな提案をされたら困ると思います。
イオリさん、もし明日以降、私と会って話してもよいと思われましたらご連絡くださいね。
いつでも待ってますから。では今日はここら辺で」
「う…」
あまりに突然のことだったので、正直に言ってイオリは腹が立っていた。
同情で話し相手を呼んできたなんて。今まで我慢していた自分が馬鹿にされた気分だった。
だが、その憤りとは裏腹に、嬉しさと希望も感じていた。
この退屈な日々を抜け出す好機かもしれない。仮に駄目だったとしても、夫の言うとおり何も変わらない。
ならば。
「ちょっと待って!」
「どうしました?」
出口に向かっていたアズサは呼びとめられて振り返った。
「明日…来てくれるかしら」
「…ええ、もちろん喜んで」
アズサはにっこりと笑うと、夫に会釈をして出ていった。
「思ってた通り上手くいきそうだな」
夫はニコニコして手をすり合わせた。
「さあ、食事にしようか。おなかが空いたよ」
「ねぇあなた」
「なんだい?」
「…私は、あなたのペットじゃないんだから。それは覚えておきなさい」
「ああ、分かっているよ」
その後の食事は殆ど喉を通らなかった。食事が終わるとすぐに寝支度をしてベッドに横たわった。
明日は、退屈でなくなるかしら。
そう思ってイオリは目を閉じた。
◆
「奥様、お客様がいらっしゃいました」
「…分かったわ」
丁度午後1時を回った頃だった。今日は昨日とは正反対の快晴だ。
朝早く目が覚めてしまったイオリは、特にすることも無かったので、庭にテーブルと椅子と日傘を出し、
紅茶を飲みながら客人の来訪を待ち構えていた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう!いい天気ですね~」
「そうね…。あぁ、そこに座って。お茶とお菓子も用意したわ」
「ありがとう。頂きますね」
それから幾分か沈黙が続いた。二人とも無言で紅茶を飲み、遠くの風景を見つめていた。
庭の垣根の向こうの草原が風に揺れ、光を反射してきらきら輝いていた。
空は青く、小さな雲がゆっくりと流れていた。
「ねぇ、あなた、夫が亡くなったって言ってたけど、寂しくないの?」
イオリは自分でもぶしつけな質問だと思ったが、聞かずにはいられなかった。
「そうですね~。寂しかったですよ」
「寂し『かった』?今は寂しくないの?」
「そう言われると、時々思い出して感傷的な気持ちになることもありますけど、
もう一昨年のことですし、今は友人が出来ましたからねぇ」
「友人…?もしかして私のことじゃないでしょうね?」
訝しげに尋ねると、アズサはきょとんとした顔をした。
「あら?こうやって、午後に二人で紅茶を飲んで、お菓子を食べて、お話をしている。
これは友人どうしがすることでしょう?」
「そ、そうだけど…」
「なら、私たちはもうお友達ですよね~」
「う…。そういうことみたいね…」
何だか調子がくるってしまった。未亡人に夫の話をさせれば、幾らか暇つぶしになるだろうと思っていたのに。
「私、実はイオリさんのこと、一度見かけたことがあったの」
「ふーん…」
「あなたがここに初めて来た日、車に乗ってきたあなたを見て、なんて可愛らしい方なんでしょうって」
「ほ、褒めたって駄目よ!」
「うふふ。それで、是非、お話してみたいと思ったわ。
外見だけじゃなくて中身も可愛い人なのかしら~って思ってね」
「…それで?」
「?」
「それでどうだったって聞いてるのよ?!正直に言いなさいよね!」
「あらあら、そんなに聞きたいのね」
「べ、別にそんなんじゃ…」
「中身も、可愛い人だと思いましたよ。すぐにほっぺが赤くなる所とかね~」
「なっ…!!」
完全に向こうに主導権を握られていた。だが、そんなことはどうでもよくなっていた。
「あなた、あんまり私をからかうともう呼ばないわよ!」
「そう、残念だわ…」
「まぁ…今回は私もいきなり失礼なこと聞いちゃったからいいけど…」
「ふふふ、ありがとうイオリさん」
「あー…イオリさん、じゃなくて、イオリでいいわよ。私一応年下なんだし…」
「イ、イオリ、ちゃん?」
「どうしてちゃん付けなのよ!」
「だって、イオリちゃん妹みたいだし、あんまりにも可愛いんですもの~」
「なんなのよもう!」
「うふふふ」
「…」
「…」
「…ぷっ」
「あっ、笑った」
「だってアズサがあんまりにも変な顔するから!!はははは!」
「ふふふ!」
それから3分ほど二人で爆笑していた。笑い過ぎてお腹が痛くなるくらいだった。
いつの間にか、辺りは夕日で真っ赤になっていた。
「あー…ふふっ…あー、えー、きょ、今日はすごく楽しかったわ」
「そうね~」
「また来てくれるかしら?」
「もちろんよ。いつがいい?」
「明日ね!」
「ええ、必ず来るわ。ではまた明日~」
そうして、やっと私の退屈な日々は終わりを迎えたのだった。