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SS書いたんですが、まぁ、あんまり共感して貰えないかもですね・・
文章は稚拙ですけど、だいたい思ってたこと詰まってます
自伝とか日記的な感じで、イチャイチャとか面白い要素は無いです。明日たぶん解説を…

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僕が彼女を初めて見たのは、とある小さなライブハウスだった。
ステージも客席も何もかも小さくて、狭くて、でも、その時見た彼女はとても輝いていた。
少しぎこちないダンスと、おろしたてで動き辛そうな衣装、震える歌声。
おそらく、僕以外の観客はいまいちなアイドルだと思っていたかもしれない。
だけど、僕は彼女のすべてに一目ぼれしていた。


それから何カ月か経った頃だろうか、彼女がだんだんと人気を得て、メディアに露出するようになっていた。
歌もダンスもあの時より上達していて、もはや立派なアイドルと呼ぶべき存在だった。
彼女がトップへ登り詰めるにはさほど時間はかからなかった。
そして人気絶頂というところで、活動休止コンサート。
最後の一曲を歌いながら、ステージの上で嬉しそうに泣いていたのを覚えている。


その彼女を、ひょんなことから僕がプロデュースすることになってしまった。
すべては肌がやたら黒いアイドル事務所の社長が原因なのだが、詳しい経緯は割愛する。
簡単に言うと、前任のプロデューサーが降板し、新人育成のためにトップアイドルと組ませる
ということらしい。

奇跡としか思えなかった。まったくの素人である僕が、彼女にこんなにも近づけるなんて。
僕は、彼女のためにあらゆることをやりとげて見せると自らに誓った。

彼女はいつも明るく、まるで天使のようでいて、庶民的な女の子でもあり、
魅力を数えたら限がなかった。
自分が彼女に惹かれているのは自覚していたが、仕事以上の関係を望んではいなかった。
一緒に仕事が出来る、それだけで幸せだった。

彼女は僕のことを○○さん、と名字で呼ぶ。
それがとても嬉しくて、初めの頃は呼ばれる度に顔を赤くしていた気がする。
プロデューサーさんと呼ばないのは、きっと僕を一人の仕事のパートナーとして
見てくれているからだろうと思っていた。だが、真相は違っていたらしい。

再活動するための準備期間が残り僅かになったある日、僕は彼女の独り言を聞いてしまった。
彼女は「プロデューサーさん」と呟いて、天井をぼーっと見つめていた。
彼女が想う人物が僕でないのは明白だった。少し胸が苦しかった。

それから、ときどき、彼女が僅かにぼーっとする瞬間があることに気がつくようになった。
本当に一瞬で、よく見ていないと気がつかないけれど、
例えば、過去に出した曲について話した後など、休止以前の活動にかかわる話題の時には
頻繁に見ることが出来た。
ぼーっとする彼女を僕が見つめていると、彼女はふと気がつき、
「どうしました?」と何事も無かったように聞いてくる。だから僕には何でもないとしか答えられなかった。


ここからは僕の妄想が多分に含まれていると思って欲しい。
彼女は、前任のプロデューサーとの思い出に浸っているのかもしれない。
休止コンサートの後、二人の間に何があったかは僕には分からない。
前任のプロデューサーは事務所内でも会うことがしばしばだが、彼女は仕事以上の接し方を
彼に対してしない。冷たく接している訳ではないが、特別何か話し合う訳でもなく、
やけにあっさりしている。それがずっと僕には不思議だったのだが、
もしそれが、お互いに分かり合った上でのことならば。


こうして僕があれこれ考えている間にも、また彼女は一人ぼーっと宙を見つめている。
その思索の先には彼がいるのだろうか。

今こうして彼女と仕事をしていても、やはり彼女のことが好きで、それは日々大きくなっている。
しかし、振り向いて貰おうとも、貰えるとも思ってはいない。
僕は、彼女の隣にいられる幸せ以上の幸せを、望む勇気も、欲も無かった。
ただ、彼女が、プロデューサーさんと呟いたあの日のような、
僕の介入する余地の無い表情を見せる時、その横顔に、
あのライブハウスで一目ぼれした以上の、たまらない愛おしさを感じるのである。
 

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