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ちょっとした書きもの。フィクションです。おおよそ。
続きというか、話の顛末はあるのだけど、書くかどうかは未定。

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ある秋のこと。
 

受験生だった僕は毎日学校へ出なければいけなくなり、すっかり疲れ切っていた。
久しぶりの休日だったその日は、昼まで布団の中で寝ていた。
ちょうど13時ごろ、机の上の携帯電話が突然振動し始め、ガタガタと煩い音が鳴り、僕は目を覚ました。
どうせ、電話会社の宣伝メールだろうと思い、布団の中で携帯が止まるのを見つめていたが、
しばらくの間震え続けていたことで、誰かからの電話だと気がついた。
急いで布団から出た途端に電話は切れた。
携帯をつかんで開いてみると、同級生のAさんからだった。

僕の携帯には、クラスメイト数人と、家族くらいしかアドレス帳に登録されていなかった。
それに、登録されていたところでやり取りは殆どしていなかったし、届くのはアド変メールくらいだった。
親以外から電話が来るのは初めてだった。
Aさんとアドレスを交換したのはつい先日のことだった。

僕に何の用事があったのだろう。
女の子から電話が来るなんて、人生初だ。
でも、出ないで切れてしまったから、掛け直さなくてはいけなかった。

結局、かけ直すまでに10分もかかってしまった。何もしていないのに手汗がにじんで、携帯が熱くなった。
「もしもし…僕です…」
「あ、○○くん」
「あの…」
「えっと…」
「あの、さっきの電話…何か用事ありましたか?」
「…えっとね、その、暇だったから、○○くん今何してるのかなって思って…」
「そ、そうなんですか…」
「うん。ごめんね、忙しかったでしょ?今は大丈夫?」
「いや!全然!今まで寝てて出られなくて気がつけなくてその携帯見たらあったからその!」
「そうなんだ?じゃあ…おはよう?」
「お、おはようございます…?」
「おはようございますw」

ここから先はいろいろと緊張して話していたからか、よく覚えていない。
とにかくドキドキしていた。
電話は苦手だったし、女の子と何を話したらいいのかもよく分からなかった。
話題が切れないように頑張ったけれど、もしかしたら、意味不明なことをたくさん言っていたかもしれない。
気がつくと40分もおしゃべりしていた。
Aさんが「またね」と言って、僕も「う、うん。また」と言って切った。
それから数分ぼーっとしていたら、メールが来た。Aさんからだった。
「電話楽しかったです。またおしゃべりしようね」みたいな内容だった。
僕はいつでもどうぞ、なんて書いて返信してしまい、後悔してすぐに出来る限り頑張りますと送った。
そうしたら、笑顔の絵文字のメールが送られてきて、自分も絵文字くらいつければよかったと
また後悔した。

その日の夜、Aさんと電話をして学校に遅刻するというフクザツな夢を見た。


Aさんは、落ち着いた雰囲気の人だった。たぶん頭は良いと思う。
いつも淡々としていて、笑顔も見たことはあるけれど、それよりも集中している姿の方が印象的だった。
僕は目が悪かったし、女の子の顔をまじまじと見つめるのが恥ずかしかったため、
彼女の斜め後ろからの横顔しか、まともに見たことが無かった気がした。
かわいいかどうか聞かれたら、かわいいけれど、アイドルのようではないというか、
かわいさとは別のベクトルの良さがあって、真剣な表情はとても魅力的だった。
電話がかかってくるまで、学校で話をすることは少なかった。
たまたまAさんから、「そういえばアドレス交換してないよね」と言われて交換したのが
何日か前のことだった。

今現在、あの時の自分の気持ちを思い出すなら、おそらく、僕はAさんが好きだった。
ただし、自覚はなかった。ほんの些細な好きという気持ちで、曖昧な部分も大きかった。


電話の日の後、学校で何度か会ったが、やっぱり会話はしなかった。
出来なかったというのが正しいかもしれない。話しかける勇気があったら、もっと違う人生を歩んでいた筈で。

1週間後、またAさんからメールが来た。
「勉強で忙しいと思うけれど、今度の連休に一緒に美術館に行きませんか」という内容だった。


 

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